女の悦は男の鬱。男の悦は女の鬱…山田詠美「姫君」、小川洋子「ホテルアイリス」、川端康成「眠れる美女」、室井佑月「熱帯植物園」

女の悦は男の鬱。男の悦は女の鬱…山田詠美「姫君」、小川洋子「ホテルアイリス」、川端康成「眠れる美女」、室井佑月「熱帯植物園」

このテーマでこの記事を書こうと思い立ってから、かなり時間が経ってしまった。

私が今まで読んでいた小説は昔の私みたいな話しかないのだ。

内側にいる時は内側にいる事も気づかない。

矛盾と勢いだらけの敢えて遠回りな人生を選ぶ「渦中」にいる主人公しか登場しない本ばかりで、なんだかこの記事を書く気が起きなくなってしまった。

変わったばかりの私は、手元にある本をめくっても、懐かしむような余裕はなく一蹴したくなった。

また読み込んでしまうと過去を振り返ってしまいそうなので、少し別の視点から書かせて頂くことをお許しください…

 

山田詠美「姫君」

人間は「もう死のう」と思い立った時に、乗りたい電車が目の前まで来ており、急いで改札を潜り抜けようとする感覚に近いものを感じると気づいた。

私は今までに何度も「悪から逃げて、頑張らずに幸せになりたい」という意味で「死にたい」と言うことがあった。

「もう、今死のう」と感じた時は非常に冷静さに欠けており、遺書を書く事も頭によぎらず、友達にお別れの連絡をする余裕もない。

化粧もやりっぱなしで中途半端な顔、音楽も流したまんま、最後の一服も頭にはなく、全てが見えなくなっていた。非常に焦っていた。

「姫君」の主人公、時紀は「死にたくなる事情がある人だっている」とも「人に必要とされてしまったら、死ぬ自由すら手に入れることが出来ない」とも語っている。

私もこの二つの感情を持ち合わせていて、散々パニックになった結果、後者を選んで友達に電話をした。

誰かに愛されるということは非常に責任が伴う事であり、人と関わる以上勝手に死んではいけないという事を思い知った。

愛とかセックスとか音楽とかを大きく語って、人の顔色を伺って、少し異端な立ち位置で生きる。

そういう主人公のお話だ。思春期の家庭環境が大きく自分を左右することを、ひしひしと感じる物語である。

本当は桐野夏生の「抱く女」についても、ここで書こうと考えていましたが、70年代、学生運動、怠惰な日々、セックス、夢追い、大人になってからも付きまとう家庭問題、みたいなテーマが詰め込まれた小説を読むのが苦しくなってしまったのでやめました。

その手の渦中にいる方は「姫君」同様オススメいたします。

 

小川洋子「ホテル・アイリス」

歳の差愛、少女性については常々記させて頂いているので、少しでも興味がある方や経験がある方には、この本を推奨いたします。

ホテル・アイリスで受付嬢をつとめる17歳の少女と一度ホテル・アイリスにお客として訪れた年配の男性との物語です。

毒っ気のある母、美しい娘、サドの顔を持つ男性…様々な情景が美しく結びついております

「日曜の午後、遊覧船の待合室で、あなたとあんなふうにお話しすることになろうとは思いもしませんでした。

この歳になれば、たいていのことは予想できてしまいます。不必要にうろたえたり、悲しんだりし

なくてもすむよう、心の準備を怠りません。」

と、男は少女に手紙を送った。

いつだって年上の男性にとって、若く美しい女性との接触は奇跡に近いものなのだと、この文章から感じました。

少女が男性との会話中に「自分がしくじったら目の前にいる女の子はバラバラに壊れてしまうかもしれないと、恐れているかのようだった」と述懐しているのですが、若さは脆さであるという上の気遣いと共に、やはり目の前の若い女性を失いたくないという強い気持ちも感じられました。

港のホテル、ヨット、煌びやかなレストラン…さまざまな美しい情景の中に本質を突いた鋭さが垣間見えるところがこの小説の魅力です。

 

川端康成「眠れる美女」

主人公「江口」(67歳)が、秘密の屋敷で眠らされた若い女性の体を堪能する超変態的文学です。

露骨な官能とはまた別の、品性で覆い隠された人間の本音と図々しさと邪悪さと正直な欲望が垣間見える物語です。

人間は死が近付くと本能的に若い体に縋りたくなるのか、それとも愛欲のためなのか、どちらとも言えるのか、考えさせられる本です。

現代の水商売から更にきちんと情を拭いとるような「眠らされている」という接客スタイルが、残酷で堪らないです。

裸の女性と添い寝をすることで自身と向き合い、顧みたり、回顧をする江口老人の姿も惹かれるので、是非季節の変わり目に読んで頂きたい一冊です。

 

室井佑月「熱帯植物園」

「恋の季節」を口ずさむシーン、当時加賀まりこさんや安井かずみさんが訪れた事で有名なレストラン「キャンティ」が登場する事から、60年代後半ぐらいのお話だと推察して読んでおりました。

主人公「由美」は16歳の高校生。

父親「ジュン」、父親の不倫相手「由美」、三十代の年上の恋人「貴史」が主に登場する。

平凡な学生生活の中に、女子高校生特有のませたり背伸びしている雰囲気や、セックスや家事などの学生生活とは裏腹な非日常的な出来事へ刺激を求める様、刺激とは裏腹に怠惰と冷めた目線を持ち合わせている姿は、思春期特有のオンナと少女の狭間である様子が大変細かく描かれております。

「制服のあたしは、社会人の貴史にとって、偶然手に入った宝石なのだと思う。布団に潜り込んできた猫なのだと思う。少年時代に夢中になったプラモデルの延長線上の存在だ。」

と由美が貴史に言った言葉は、歳の差愛含むアンバランスなカップルへの本質を確実に捉えていて1番のお気に入りです。

若さや容姿の美しさだけに価値を置いて、自分には見合わない女性を好む男性の本質って非常に未熟でドリーマーだと思います。

仮に自分より一回りぐらい年上の男性を好む女性の精神年齢が実年齢より高いとしても、自分より一回りぐらい年下の女性を好む男性は実年齢より精神年齢が低いパターンが多いと思います。

とにかくこの本は、思春期にしか体感できない刺激を得られるので日常に飽きた方にもおすすめです。

瞳、美砂、恵里奈、朋子とは自分まで悪友でありクラスメイトだと錯覚することができます。

狭い世界の中ではしゃぐ楽しさもたまにはアリですよね。

私が17歳の時にこの本に出会ってから、世界で一番好きな本です。

好きな人には必ずこの本を教えております。

オンナをふんだんに感じられる本ばかり読んでしまうのですが、その裏に必ずオトコの存在は必然的なのが、またこの本達の魅力だと思います。

私は官能的な本が好きなのではなく、官能の裏にある冷静さと本質を知りたいのです。

まだまだご紹介したい本は沢山御座いますが、今回はこの辺にしておきます。

 

執筆者 赤城文(あかぎ・あや)

赤城文

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FREEZINEにてコラム「文系恋人放浪中」連載中

「文系恋人放浪中」 by 赤城文 | FREEZINE(フリージン)

 

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