松坂屋美術館で開催「不思議の国のアリス」展へ行って。アリスと4人のイラストレーター。

松坂屋美術館で開催「不思議の国のアリス」展へ行って。アリスと4人のイラストレーター。

アリスの変化を鑑賞する

 

名古屋・栄の松坂屋美術館で9月21日(土曜日)まで開催中の「不思議の国のアリス」展。これは、英国マクミラン社から「不思議の国のアリス」の出版160年を記念しての企画巡回展。ご覧になった方も多いでしょう。

今回のブログも、鑑賞して考えたこと調べたことをつらつら書いてみた内容です。結構、文化的な部分も含んでいるので飛ばさず、読んでもらえると幸いです。

 

会場には、250点を超える原画がズラーっと並んでいますが、挿絵なので小さいものも多いです。しっかりと観ていくと結構疲れますので休憩しながら周ってくださいね。

企画としては、アリスの物語を描いた4人のイラスレーターの作品を比べて、どのあたりが最初の原画に沿っていて、どの点が違うのかなど、アリスと登場キャラクターたちの変化を楽しむ内容です。

 

深い世界なんですよ、アリスって。まあ、あなたの方がよく知っているかもしれませんけれど、掘れば掘るほどに面白い。

ああ、英語がわかればもっと楽しめるのだろうなあと思いつつも、芥川龍之介と菊池寛の訳本を読んだりもしておりました。

 

グッズもかわいいものが多いのでぜひ売り場チェックしてください。

 

ルイス・キャロルとアリス登場キャラクター

さてさて、わたし会場を何周もするうちに私、ドードーが好きになりました。

ドードーは、実際に存在した鳥ですけれど乱獲で絶滅した鳥。物語の挿絵では、翼に人間の手がついていて妙に人間ぽく見えません?

 

(4人のイラストレーターのひとりジョン・マックファーレン画のドードー。周りの動物たちも作家によって、この動物いる、いないに違いがあります。ガラスケース越しなので私も若干映り込んでます。ごめんなさい。)

この鳥は、「不思議の国のアリス」でルイス・キャロルが自分と重ねて登場させたキャラクター。自分の本名(チャールズ・ラドウィッジ・ドッドソン)と発音が似ています。

 

 また、ドードーと同じように「鏡の国のアリス」では、年老いた白いナイト(騎士)もルイス・キャロルだといわれています。

 

ハリーシーカー彩色

この騎士(ナイト)は発明好き。ルイス・キャロルも発明が得意でした。

さて、ふたつのアリスの物語では、テーブル・ゲームがポイントなっています。

「不思議の国のアリス」は、カードゲームのトランプが後半登場し、「鏡の国のアリス」では、物語全体がチェスの駒の動きで表現されています。

アリスは、チェスの駒で一番弱い「ポーン」からスタートです。日本の将棋でいうと「歩」です。

そのポーンは敵陣の一番奥まで進むと「クイーン」となり最強の駒へと変化するのです。将棋だと「歩」が「金」に成るルールですね。

「鏡の国のアリス」は、困難に直面しながら成長するアリスの姿が描かれているかと思われます。最後のアリスがクイーンとなってカエルと一緒にいる場面なんてとっても大人びて見えます。

 

この執筆の頃はルイス・キャロルとアリス・リデル(アリスのモデルとなった少女)は、母親から拒絶されてしまい。まったく会えない状況にあったといいます。

ですから、アリス達とチェスで楽しんだ思い出をもとに構成を組んで、こうであってほしいなぁという「願い」が反映されているのかと感じます。

会えなくなった理由としては、ルイス・キャロルが当時11歳だったアリス・リデルに求婚し、母親に断られたという”噂”があったのは確かですが、真相はどうなのか。(安井泉編「ルイス・キャロルハンドブック」七ツ森書館、2013年、24p下段)

自分を老いたナイト(騎士)にたとえ、アリスを助けるシーンなどはルイスの心。。。白馬に乗った王子さまか?考えすぎか?

 

アリスを描いた4人のイラストレーター

松坂屋美術館で開催されている「不思議の国のアリス」展で鑑賞できる挿絵作家の4名を紹介しておきます。

・まずは、サー・ジョン・テニエル1820年ロンドンに生まれ1914年に亡くなった挿絵作家。サーがついていることでお分かりかと思いますが、ナイトの称号をビクトリア女王から与えられた人物です。

19世紀ビクトリア朝時代の英国は挿絵作家の時代と言われています。

産業革命によって工業化していくなか印刷技術も進歩し、雑誌や書籍などで挿絵の需要も高まったと考えられます。それはもちろん児童文学においてもです。

また、英国は階級社会。上流階級、中流階級、労働者階級という階級ですね。

大きな社会の変動で、階級構造にも変化が起こりました。中流階級ミドルクラスがぐっと増えたのです。

そんな中、家庭では子どもに向けたまなざしも変わっていきました。

それより前の家庭は、なにより父親が第一・・・子どもにまでは・・・という意識が強くありました。

子どもたちの着る服といえば、上流階級でいえば大人のドレスを小さくしコルセットもつけて・・・、労働者階級では大人の服の小さいサイズを身につけていました。

しかし、ビクトリア朝時代の後半には、子どもには、子ども専用の服という考え方が広がっていったのです。

特に「不思議の国のアリス」において読者層のメインとなったのは中流階級の家庭で、それはアリスの服装にも表れているといわれています。

子どもへのまなざしによって、今でいうところのキャラクター服のように、実際アリスの服やそのほかの児童文学に出てくる衣服をまねたものが売れたそうです。

しかし、ここで気になることがひとつ。ルイス・キャロルが「地下の国のアリス」で描いたアリスの姿は?という点。

ルイスの描いたアリスは、なんだかこうシンプルな装い、エプロンもつけてないですし、かわいいかなぁ?もちろん画力の低さもあるでしょうけれど。

ちょっと宗教的な存在に近いような。。。

個人的には、純真無垢という言葉がしっくりときます。

このあたりの考察は、重要だと考えますが長くなりそうなので、また次の回で。

 

(ルイス・キャロル挿絵、トランプの女王様に命ぜられてクロッケー。ゲートボールのもとになったスポーツに参加。フラミンゴが打つ道具となり、ハリネズミがボールというナンセンス。)

 

世に出るアリスの服は、サー・ジョン・テニエルの挿絵によって生まれました。

当時の流行を取り入れドレスは少し膨らみ(ルイスの希望を入れてあまり膨らみすぎないように)、エプロンを付け、髪は少しウェーブかかっているように見えます。(下の絵)

 

 ルイスの描いたものは、こうであってほしいという願望のようなアリス。

そうかといってテニエルへ対する挿絵の注文はそれほど厳しいものではなかったといいます。

「不思議の国のアリス」はルイス・キャロルが物語を整えてジョン・テニエルが挿絵で物語への想像力をかき立たせ、イメージを作り上げた共同作業の児童文学ということがよくわかるのでしょう。

想像をかき立てるといっても、最初の出版本は文字と線画だけでした。

それがたくさん売れて、1870年に続編「鏡の国のアリス」の出版へとつながります。

 

初めて絵に色がつけられたのは、多くの子どもにも親しんでもらおうと「鏡の国のアリス」から20年後、1890年に出版された「子供部屋のアリス」です。

ジョン・テニエルは挿絵を描きなおし、色を付けました。ひとつ前の線画と違いわかりますか?ドレスは黄色に、頭には青い大きめのリボンが加えられました。

 

その次に出版されたのがルイス・キャロルの亡くなったあと、「リトル・フォークス・エディション」という小ぶりな本。1907年版では、アリスは赤いドレスに黄色のストッキングとなっています。

原画では多く展示されていました。

 

・やっと2人目です。ハリー・シーカー

1873年に英国のスタッフォードシャー(イングランド中西部)で生まれの画家、デザイナーで1954年に亡くなりました。

この方のエピソードが驚き!「不思議の国のアリス」に関わっていたことが分かったのは、なんと1986年。亡くなってから偶然のこと。

1911年に出版されたアリスの本にて、ジョン・テニエルの代わりに挿絵の色付けを担当したのです。出版から75年後に判明ってどういう偶然だったのでしょう。

その時のアリスは、ドレスはうすい水色で、ストッキングは青い縞柄。このアリスの姿が、現在にいたるアリスのイメージとなっています。

 (1911年 「不思議の国アリス 鏡の国のアリス」)

 

・続いて3人目。

ジョン・マックファーレン1857年生まれ。

1921年出版のアリスで8点、1927年版で34点のカラー挿絵を担当。

このジョン・マックファーレンは、ジョン・テニエルの挿絵を参考に自分で線画を描いて、彩色しているのが特徴です。表情も違うし、服の色、エプロンやストッキングなど細かい点で変化があります。

 

 (線も色も強い印象です。カチッとしたイメージを与える描き方。)

 

・ラスト4人目。ディズ・ウォリス

現在も活動する画家。1995年、「不思議の国のアリス」出版130周年を記念しての本(「不思議の国のアリス、鏡の国のアリス」特装版)で、2人目に紹介したハリー・シーカーが描いていなかった残りの76点を色を引き継ぐ形でカラーイラスト化しました。

(アリスが、キノコを食べて体が縮んだり、伸びたりするシーンです。)

なんだか柔らかい感じですよね。特に2人目に紹介したジョン・マックファーレンと比べるとふわっとした感じがして私すきですね。

 

挿絵という絵画

 今回の展覧会を鑑賞して強く感じたのが、挿絵って語るんですね。

物語を補う役目だったり、想像させることを促したり。こんなに面白いものとは思いませんでした。

また同じ場面を比べることで、作家の個性、例えば、ジョン・マックファーレンは固い感じがしたり、ディズ・ウォリスは、柔らくて何かに包まれている絵の雰囲気がつかめることでしょう。

それから、最初に描いたサー・ジョン・テニエル以後の3人は、テニエルの原画を基にしながら、アリスのイメージから外れず、加えて自分の個性を出していく。実はこれが一番難しい仕事だったのではないかと思うのです。

そしてなんといっても細かい作画!

物語の場面を補完するわけですから、細かい情景や登場キャラクターがとても多いシーン、キャラクター自体の細かい表現などなど。

挿絵の原画ですから、サイズは小さいので余計に細密に感じます。この辺りはぜひとも会場で確認してほしいところです。

最終的には行ってよかったアリス展という心境であります。

今後もアリスの考察は続くのです。。。次回へ。

  

アリス・グッズ紹介2

前回に引き続き購入してきたグッズを紹介しておきます。

ケースが、ブック型になっているビスケット。ひとつひとつにキャラクターなどプリントされています。たしか1000円ちょっとほどでした。。。 

 

アートマグネット・チェシャー猫。税込み990円。かわいいいような、ややこわいような。。。

 

女王様の「この者の首をはねよ!」の場面。ハリー・シーカーによる彩色バージョンのA5クリアファイル。税込み495円。

 

アクリルオブジェ・ハンプティ・ダンプティ。自立型です。税込み1100円。 

 

「不思議の国アリス」展は、名古屋・栄の松坂屋美術館で9月21日(土)まで開催しています。 

鑑賞しているとちょっと心があったかくなるような、表情はきっとにこやかに。ぜひあなたにもおすすめです。

 

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参考文献

・「ルイス・キャロル・ハンドブック」編集者安井泉、七つ森書館、2013年

・図説「不思議の国のアリス」著者桑原茂夫、河出書房新社、2007年

・「ヴィクトリア朝の子どもたち」著者奥田実紀、ちばかおり、河出書房新書、2019年

・「アリスのワンダーランド」著者キャサリン・ニコルズ、ゆまに書房、2016年

・「アリスの服が着たい」著者坂井妙子、勁草書房、2007年

・「挿絵作家の時代」著者清水一喜、大修館書店、2001年

執筆者 

青木 雅司

美術検定1級アートナビゲーター

画像の左上が私です。こういう画像をたまに制作しています。

アクリル絵の具を使ったマーブリングを撮影して、いろんな画像と組み合わせています。

昔、あいちトリエンナーレ2013の広報メンバーの一員だったことも。

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